ハンドメイド石けん(基礎編)
欧米では、古くから、家で石けんを作って楽しむ、いわゆるハンドメイド石けんを趣味としてやられていましたが、昨今、自然志向やエコロジーの意識の高まりもあり日本でも様々に楽しむ人が出てきているようです。いわゆるコールドプロセスで作れば、比較的簡単に石けんが出来るため、人気がある様です。
その際の製法は、ほとんどの場合けん化に必要な所定の量のアルカリを5%くらいあらかじめ減らして、最終的に未反応の原料油が過脂肪剤となるようにする様なもので、塩析等もないのでグルセリン等の不純物の多い仕上がりになります。
ラボスケールですが、中性油から石けんを焚く場合、いかに確実にすべての油を石けんにするか、所定の遊離アルカリにコントロールするかに腐心してきたものからみるとビックリのしろものの様に見えます。とはいえ、自分でいろんな石けんを作るのは楽しい事ですので、最低限の注意さえわきまえれば、趣味の一つとしてはなかなか面白い事だと思います。
最低限の注意とは、アルカリ剤の危険性の認識、出来上がった石けんの使用用途等の事です。
アルカリ剤の危険性
石けん作りに欠かせない苛性ソーダ・苛性カリ等のアルカリ剤は劇物に指定されており、その取扱いには十分な注意が必要とされます。ビーカースケールで石けんの試作をする場合、保護メガネ、ゴム手袋は当たり前の様に装着して作業をします。たとえば、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の試薬は粒状のもので、直接触ればすぐに皮膚がただれるくらいの劇薬です。
ラボでの石けん用の苛性ソーダ水溶液を作る場合も、ドラフトといって有害ガス等を扱う負圧にされたブース内で溶解時に発生する蒸気等を吸い込まないようにして作業をしたりします。溶液を作る段階でもそれだけのリスクがあるので石けん用としての工業用の苛性ソーダやカリは水溶液の状態(48.5%)でメーカーから受け入れます。仕込時にはさらに薄めて使用します。
取扱い上の注意をまとめると
■そのものに直接触れた場合や水溶液が付着した場合は、ただちに水洗いをする
■苛性ソーダ・カリの容器は、子供等の手の届かない場所に、カギをかけて保管する
■特に、目に少しでも異常を感じたら、すみやかに医療機関に相談、受診すること
■空気中にさらしたままだと、潮解性のため変質するので必要な分のみ容器から出すこと
さらに詳しい安全性に関する情報はこちらで見られます。(日本ソーダ工業会のサイトより)
油脂の分析値について
油脂から石けんを作る場合に、その油の分析値を知る必要があります。特にケン化価は、石けんを作る場合には必要不可欠な値です。
項目 | 内容 |
---|---|
酸価(AV) | 試料1g中に含有されている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数。ある程度、その油の鮮度の目安にもなります(一般には低い方が鮮度が良い)。石けんを作る場合は、高い方が初期反応は進みやすくなります。 |
ケン化価(SV) | 油脂1gを、けん化するために必要な苛性カリ(水酸化カリウム)のmg数。単位重量当たりの、エステル結合の数がわかり、その油の分子量等がある程度推定できます。高ければ高いほどその油の分子量(すなわち炭素鎖の長さ)は小さいと推定できます。 |
ヨウ素価(IV) | 試料100gに規定の方法によってハロゲンを作用させたとき結合されるハロゲンの量をヨウ素のg数に換算した値。油脂中の2重結合の量を表す指標で、ヨウ素価が高ければ、2重結合が多く、柔らかい石けんが出来ると推測できますが、反面高いと酸化しやすい油であることも注意の必要があります。 |
融点(上昇融点) | 内径1㎜,外径2㎜,長さ50~80㎜のガラス管に油脂を10mm程度、入れ水中にて加温してゆき、油脂が解けて上昇した時点の温度。その油脂の常温での状態(個状、液状等々)がわかり、輸送、保存等、取り扱う上での需要な数値です。脂肪酸の場合はタイターと言います。 |
色相 | 油脂の色の測定方法としては、ガードナー法、ロビボンド比色計法、APHA(ハーゼンナンバー法)等がある。いずれも、透明、液状にした油脂サンプルと、比較対象の標準色と目視で透過光で比較する方法。入荷時の検査には、標準色が、フィルターになっていて、操作が簡単なロビボンド比色計が良く使われます。 |
石けんの不純物について
工業的に製造されている石けんは、中和法であれ、釜焚き法であれその残留の不純物については、皮膚刺激性、変臭、変色等々商品として問題があっては大変なので、ものすごく慎重に配合は決められます。たとえ、僅かな量の1種類の原材料を変更する場合でも、ラボやフィールドテストを行い問題がないかチェックしたのちに商品化するのが普通です。また、薬事法を始めとする規制もあり危険なものが流通する場合は少ないと思われます。
それに対して、自宅で作るハンドメイド石けんは、塩析等の工程もありませんし、原材料油脂も様々でなにか、意図しないうちに皮膚に好ましくないものが残留する可能性も無視できません。そのあたりを考慮すると、皮膚の洗浄の用途を目的とするならば、原料油脂は食油グレードのものを必ず使用していただきたいと思います。
ただ、揚げ物に使用した廃油も洗濯用等の用途ならば全く問題は無いと思います。
油脂の不純物 | リン脂質(ガム成分) カロチノイド系やクロロフィル系等の色素 ロウ分 各種ステロール タンパク質・・・ 酸敗等により発生する-> 過酸化物類 カルボン酸 アルデヒド類 アルコール類等々 |
苛性ソーダの不純物 | 炭酸ソーダ(苛性ソーダが空気中の炭酸ガスと反応して生成) |
以下に苛性ソーダの微量の不純物の例を掲載します。苛性ソーダは隔膜法と言う製造法になってからは、有害な不純物は非常に少なくなっており、原則としては問題となる事はありません。
規格区分 | 特級 | 1級 | |
容量 (形状) | 500g (粒状) | 500g (粒状) | |
純度/濃度 | - | min. 97.0 % | min. 95.0% |
水溶性 | - | to pass test | to pass test |
色 (Hazen) | max. | - | - |
塩素 (Cl) | 〃 | 0.001 % | 0.007 % |
リン酸塩 (PO4) | 〃 | 5 ppm | - |
ケイ酸塩 (SiO2) | 〃 | 0.002 % | 0.01 % |
硫酸塩 (SO4) | 〃 | 0.001% | 0.002 % |
窒素化合物 (N) | 〃 | 5 ppm | 0.001 % |
カリウム (K) | 〃 | 0.05 % | 0.1 % |
銅 (Cu) | 〃 | - | - |
マグネシウム (Mg) | 〃 | 5 ppm | - |
カルシウム (Ca) | 〃 | 0.002 % | - |
ストロンチウム (Sr) | 〃 | - | - |
バリウム (Ba) | 〃 | - | - |
亜鉛 (Zn) | 〃 | 0.001 % | - |
カドミウム (Cd) | 〃 | - | - |
アルミニュウム (Al) | 〃 | 0.002 % | 0.003 % |
鉛 (Pb) | 〃 | 5 ppm | 0.001 % |
ヒ素 (As) | 〃 | - | - |
鉄 (Fe) | 〃 | 5 ppm | 5 ppm |
ニッケル (Ni) | 〃 | 0.001 % | - |
炭酸ナトリウム (Na2CO3) | 〃 | 1.0 % | 1.5 % |
製品名 | 水酸化カリウム | 水酸化ナトリウム | |
純度 | - | min.85.0 % | min.95.0 % |
外観 | - | to pass test | to pass test |
定性試験 (1) | - | to pass test | to pass test |
定性試験 (2) | - | to pass test | to pass test |
水溶性 | - | to pass test | to pass test |
塩素 (Cl) | max. | 0.050 % | 0.050 % |
重金属 (as Pb) | 〃 | 30 ppm | 30 ppm |
ナトリウム (Na) | 〃 | to pass test | - |
カリウム (K) | 〃 | - | to pass test |
炭酸カリウム (K2CO3) | 〃 | 2.0 % | - |
炭酸ナトリウム (Na2CO3) | 〃 | - | 2.0 % |
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