石鹸雑記帳


せっけんって何?

せっけんはすごく身近なものですが、その中身がなんなのか? 正しく知っている人はわりと少ないかもしれません。工場見学の方への対応をかつて経験した筆者ですが、その印象は間違っていないと思います。なるべく、理解してもらえるようにわかりやすく説明して見ます。

化学的にみると・・・

純粋に化学的にそっけなく言うと、せっけんとは、「脂肪酸の塩」と言う事になります・・がこれでは何のこっちゃ分からないですよね~wでは、気を取り直して,せっけんとは、「油脂を加水分解(けん化)して出来た脂肪酸の塩」と言う事に・・・・う~んますます泥沼に・・・とりあえずは、石けんの主原料である油・油脂とはなんなのかをまず説明してみます。油には調理用のサラダオイルの様な植物性のものや牛脂・ラードの様な動物性のものと2つの種類があるのはみなさん良く知ってると思います。生体内では複雑な反応を経て、糖質が脂肪の形に変え蓄えられます。その様な油を化学的に言うと「脂肪酸とグリセリンのエステル」って事になりますがこれも難しいですねえ。なんか学校の授業みたいになって恐縮ですが、化学式で書いてみますね。下の図の左側が油脂の化学式(構造式)です。
R1~R3はその由来する油によって炭素の数とか結合方法が異なります。
(C:炭素 O:酸素 H:水素)


もう少し説明をしてみます。結局、俗に言う油とは、アルコールの一種であるグリセリンと有機化合物の脂肪酸が結合したものと言えます。
(ガソリンとかエンジンオイルも油の一種ですが、これらは鉱油と言い、基本的に石油から由来するものでここでは取り扱いません)


上の図で、グリセリン側の水素(H)と脂肪酸側の水酸基(OH)がとれて水(H2O)となり、両者が結合してエステルになります。エステルって聞くと、なにか難しそうですが身の回りには天然物、合成物を問わず、ごく普通に存在しています。たとえば、果物の甘いにおいはエステル化合物が多いですし、繊維のポリエステルってエステルどうしを多数結合(重合)して作られます。身近なお酒の成分である、エチルアルコールと酢の成分である酢酸をエステル化すると、酢酸エチルと言うエステルになり、塗料の溶剤とか除光液等に用いられます。エステルとは、アルコールと酸が結合して出来ている化合物で、油脂もそのうちの一つと考えてください。


ここでやっと本題に・・・

油脂から石鹸を作る反応は、上のエステル化と、逆の反応になり、加水分解反応になります。(石鹸製造ではけん化反応と呼びます).具体的には、油脂にアルカリを反応させ、加水分解し、エステル結合に、水分子が加わり脂肪酸とグリセリンに分かれ、脂肪酸はそのアルカリの塩(つまりせっけん)になります。下記の例はソーダ石鹸のものです。カリ石鹸の場合はアルカリ剤がKOHになります。
(R1、R2、R3はその油脂固有のアルキル基(炭化水素))


この反応は、最終的なもので、初めに脂肪酸が遊離し即座にその後、Naと反応し石鹸が生成されます。
ただ、実際にビーカースケールで油脂から石鹸をたいてみるとわかるのですが、反応が進み全体がちゃんとした石鹸になるのにはかなり時間がかかります。開始初期は、タネ石鹸と呼んでいた、油脂を乳化するための石けんを濃い苛性ソーダで作るようにして、出来たタネ石鹸で油脂を乳化させます。このタネ石鹸をいかにうまく作るかがポイントでその後は急速にけん化が進みます。その後は薄めのカセイソーダで、最終的な遊離アルカリになるようにもってゆきます。あらかじめ苛性ソーダの総使用量は、その油脂のけん化価から算出しておきます。
1980~90年代あたりまでは、どこのメーカーもこの様な方法で、石鹸の素地を製造していましたが、現在では、大手のほとんどは、脂肪酸を中和して製造する方法などに代わり、中小のメーカーで昔ながらの製法にこだわるところしかやられていません。さらに言えば、その石鹸素地すら、国内では大手は作らず、海外(主に東南アジア マレーシア等々)で生産したものを石鹸チップとして輸入し、国内では、添加物を加え成形・包装するだけになってきています。

脂肪酸と石鹸について

さらにもう少し話を進めます。基本的に、せっけんとは油脂とアルカリから作られるものだと言う事は述べましたが、その油により出来る石鹸の性質が大きく異なり、商品として成立する様な使いやすいものにするにはその油の種類、配合が非常に重要になります。動植物油脂であれば、どのようなものからでもいわゆる石鹸(脂肪酸塩としての)はできますが、工業製品として考えた場合、原料の安定供給、コスト等から通常の浴用石鹸用としては、旧来、牛脂とヤシ油が長年使用されてきていました。
ここで主な油脂の脂肪酸の含有比率を見てみます。

油種\炭素数 C8  C10  C12  C14  C16  C18 C18:F1 C18:F2 
ヤシ油8.36.146.817.39.32.97.11.7
牛脂0.12.526.115.745.53.7
豚脂0.21.725.114.443.29.6
オリーブ油10.43.177.37.0
パーム油0.51.144.04.439.29.7
パーム核油4.13.648.015.48.22.415.32.6
五訂増補成分表脂肪酸成分表より抜粋
つまり、これらの油脂をけん化して石鹸を作ったら、その脂肪酸の含有割合の石けんが出来ることになります。ここで、代表的な脂肪酸からできる石鹸(ソーダ石鹸)の性質について、少し説明してみます。
 
脂肪酸\石けん硬さ溶解性におい洗浄力泡立ち脂肪酸融点
C12 ラウリン酸硬い常温で解けるやや刺激あまり良くない良好44.2
C14 ミリスチン酸硬いやや溶けにくいやや刺激あまり良くない良好53.9
C16 パルミチン酸硬い熱湯で解けるマイルド解けたら良好63.1
C18 ステアリン酸硬い熱湯で解けるマイルド解けたら良好69.6
C18f1 オレイン酸柔らかい常温で解けるマイルド良好良好14.0
C18f2 リノール酸柔らかい常温で解けるマイルドあまり良くない不良-5.0
※常温:20度 熱湯:60~70度以上 ※脂肪酸融点:板倉弘重、『脂質の科学』、朝倉書店、1999年

せっけんの様々な性質は、その元となった脂肪酸の性質に大きく左右されます。
常温での溶解性の場合
      C12<-------->C18
      良い           悪い
脂肪酸の融点 44.2度         69.6度

溶解性に関しては、炭素鎖の長さが短いほうが溶解性は良く、2重結合があればさらに良く解けます。
硬さに関しては、炭素鎖の長さが長いほうがより硬い傾向にありますが、C12の石けんも硬いです。
洗浄力関しては、炭素鎖18の石けんは熱湯で溶かして洗濯用として使用すれば、なかなかの洗浄力ですが、常温では全く役に立ちません ・・・

配合の適正化

そもそも石鹸(浴用固形石鹸)に求められる、性質・性状とはどのような項目があるかですがJISに定められた試験方法も参考に挙げてみると
程よい洗浄力、良好な溶解性、良好な泡立ち、解け崩れにくさ、ひび割れのしにくさ
等々の項目が考えられます。19~20世紀にかけて、これらの要求される項目を高い水準で満たすための、油脂の配合の研究が様々にされて、牛脂80~85% ヤシ油 20~15%の黄金比率が確立されてきました。さらに近年、狂牛病の発生、より一層の天然志向等もあり牛脂はパーム油に、ヤシ油はパーム核油などに置き換わられつつあります。