石鹸雑記帳


石けんの添加物(種類・用途)

石けん、とりわけ化粧石けんの添加物については、使う側にとってかなり気になる事があります。元々、石けんの製造段階で、必然的に発生してくるグリセリンが保湿効果もあったことから、従来、生産者側もこの添加物こそが商品としてのアピール度・付加価値を高めるものとして、腕の見せ所と考えているところがあります。
一方、そのような添加物を一切含まない事を、最大の売りとするアピールの仕方も、多くあり様々な商品が世に出てきています。そのあたりを、少し整理してみたいと思います。

化粧石けんの添加物の配合の状況

JIS規格(K3301)で定義される、化粧石けんについては次のとおりです。

規格項目\分類機械練り枠練り  備考  
水分(%)16以下28以下加熱減量法(105度、240分)
純石けん分(%)93以上93以上
遊離アルカリ(%)0.1以下0.1以下
石油エーテル可溶分(%)3以下3以下油状の物質がここに表れます

※水分以外は、無水物換算での値。
※※JISK3301は1951/03/29 に制定された後、1985/09/01 に改正された時に、純石けん分につては95%以上が93%以上に変更され、その分石けん以外の添加物等が多く配合できるようになっています。従って、各メーカーはこの6~7%の枠のなかで、どのようなアピールをするか、日々検討することになります。その場合、アピール性と基本的な石けんとしての物性等を兼ね合わすのが重要になってきます。
上記の定義にはありませんが、参考までにその他石けん(主に化粧石けん)関係の内容を調べる主な分析項目をあげてみます
  
規格項目内容
アルコール不溶分 (%) 主に無機のビルダー関係がここに出ます。
遊離脂肪酸 (%)過脂肪剤として脂肪酸類が配合されているとここに反映されます。
水不溶分 (%)アルコール不溶分をさらに水に溶かし、溶けないもの。炭、クレイ等が含まれます。ゼオライトも水に不溶だが、定量は酸分解して、遊離したアルミイオンをキレート滴定して算出します。
   
  

添加物から見た化粧石けんのいろいろ


無添加系のもの

無添加の化粧石けんと言う事は、ほとんど石けんのみで形成されたものです。通常ならば配合されている、香料もないので原料のニオイ(油脂や脂肪酸)がストレートに出ます。また、酸化チタンも配合されていないので少し透明感のある外観になります。機械練りのラインだと、共用ラインの場合は普通の化粧石けんのコンタミ等がありやや生産しづらい製品です。
製品の性状はその石鹸の脂肪酸組成、石けんの結晶の状態がもろに出るので、「油脂から石けんをけん化して製造する」場合ならば、その原料油脂の質をなるべく高める必要があります。油脂の改質としては、昔から活性白度や活性炭を用いて、色素(カロチン、クロロフィル等)、夾雑物(タンパク系、リン脂質等々)を吸着、濾過して、色の脱色やにおいの改善がはかられてきました。
昔ながらの油の脱色工程の例を下記に挙げます。

食用油脂の場合は、この後に水蒸気蒸留等の工程を通して、脱臭を確実にします。
最近はこのように一から、油を精製しないで、初めからそれなりのグレードの油脂を調達する事の方が多いと思います。「脂肪酸中和で石けんを製造する」場合ならば、なおさらで、脂肪酸にする工程が油脂の脱色、脱臭工程そのものなので、それを中和する事により比較的簡単に色やにおいの良好な石けんを製造する事が出来ます。現状では、これらの石けん生地を自前で作ることも国内では少なくなり、東南アジアからの輸入石けんチップから、製造されることが多くなりました。

標準的な化粧石けん

標準的な、化粧石けんにも最近では脂肪酸等の過脂肪剤が配合される場合が多くなりましたが、最も標準的な化粧石けんの例を示します。
標準的な配合例を示します

石けん生地98.4%
香料1.0%
酸化チタン0.5%
安定剤0.05%
酸化防止剤0.05%


いろいろな石けんが売られているなか、一番量が多く一般的な商品になります。コスト的にも大量生産されるため、1個数十円程度でリーズナブルです。
石けんの価格は1個20~30円から、数千円くらいまでの幅がありますが、原材料的に見た場合、差が出るのは香料と、添加物になります。香料で言えば数千円/kg程度のものから数万円/kgのものまでありますが、配合率を考慮すると、実のところ石けんの値段の差ほどの違いはありません。また。高い香料ほど、構造が複雑で皮膚に対する刺激が強かったりするので、たとえば外国製の高価な香水入りの石けんなどは注意する必要があります。

個々の、添加物について、見てみます。

香料

浴用の一般的な石けんいわゆる化粧石けんに使われる香料は、かなりの種類がありますが、一般的なホワイト石けんタイプの香料としては、下記のようなものが挙げられます。


フローラル系
ローズ系
ジャスミン系
レモン、ストロベリー等の果実系(生地に着色する場合もある)
ハーブ系等々

配合量としては1%程度が多いですが、その種類、コスト等により増減されます。安い石けんでは数千円/Kg程度から、高級なものでは数万円/Kgあたりまであり、石けんのコストに大きく影響します。これにも合成のものと、天然系(植物由来、動物由来)のものがありそれらを混合して調合され用いられます。

酸化チタン(TiO2)

石けんそのものは、固まるとやや透明感のある外観をしていてどんな精製された油脂(脂肪酸)を用いてもかすかに黄色みを帯びていて、一般的な白い石けんにはなりません。酸化チタンと言う、いろんな分野で使われている白色顔料を添加する事によって、いわゆる石けんらしい、真っ白な感じを演出しています。白色の石けんはもちろん、色のついた石けんを製造する場合にも、クリアーに色を出すため、ベースとしてこの酸化チタンが使われます。石けんに使用されるのは、比較的粒度が細かいものが使われます。


石けん用の酸化チタンの性状例
結晶形平均微粒子径(μm)TiO2(%)比重pH
アナタース※0.1898以上3.96.0~8.0
※Anatase:鋭錐石(正方晶系)

安定剤

石けんの場合の安定剤として多用されてきているのは、キレート剤があります。石けんには、その原材料・生産ライン等から由来する金属が微量に存在し、それが触媒の様な働きをして石けんの変質に影響を与えることがあります。そこで、金属イオンを捕捉して、それが原因で起こる、石けんの変色、変臭等を防止するためのキレート剤が使われます。ここに代表的な、石けんに使われるキレート剤としてエデト酸四ナトリウム四水塩を示してみます。

ここでO-とNa+の結びつきは、他の金属イオンよりも弱く、他の金属が存在した場合、容易にNaイオンと置き換わり、より安定な物質になります。上右は、存在した場合石けんの変質に、大きく影響するニッケルイオンの捕捉される様子の例を示します。近年、エデト酸塩が安全性等について問題が提起され、その代替としてエチドロン酸塩もキレート剤として用いられてきています。


エチドロン酸の4ナトリウム塩。上のエデト酸塩と同じく、Naの部分が他の金属イオンと入れ替わります。


酸化防止剤

石けんは、空気中の酸素によって酸化され、変色、変臭等の変質が起こる事があります。これを防止するのが、酸化防止剤です。代表的な、石けん用の酸化防止剤としては、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール) 等々がよく用いられます。またそれに併用して有機酸、ビタミンE等も用いられる場合もあります。


この例はBHTの、酸化防止の原理です。油脂類の酸化の原因となるフリーラジカル※を捕捉して、酸化を防ぎます。
(※フリーラジカル:原子または分子中に、不安定な不対電子を持つもの。脂質の変質に大きくかかわります。)

過脂肪タイプの化粧石けん

従来は、過脂肪タイプは主に高級アルコール(セチルアルコール等)が多用されていましたが、現在は脂肪酸等もよく使用されています。特徴としては、クリーミーな泡、皮膚へのマイルド感等が挙げられます。
標準的な配合例を示します

石けん生地97.6%
香料1.0%
酸化チタン0.5%
脂肪酸0.8%
安定剤0.05%
酸化防止剤0.05%
(脂肪酸:ラウリン、パルミチン等)
 

その他過脂肪剤としては、中性油、ラノリン類(ウール由来、ヒツジの毛の油状成分、水素添加してより使いやすくしたものもある)、スクワラン類(サメ肝油由来のスクワレンを水素添加して安定化したもの)等々様々にあります。

殺菌タイプの化粧石けん

殺菌剤入りの化粧石けんは、「薬用石けん」とも呼ばれ添加剤に殺菌成分が配合され、手洗い時に、手に付着した細菌類を殺菌(除菌)し、より衛生的な状態に保つといううのがアピールポイントです。
薬用石けんの配合例を示します

石けん生地96.3%
香料1.0%
酸化チタン0.3%
殺菌剤1.0%
抗菌保湿剤0.5%
脂肪酸0.8%
安定剤0.05%
酸化防止剤0.05%

殺菌剤としては、トリクロサン、トリクロカルバン(トリクロロカルバニリド)等が用いられます。皮膚の保護も兼ねて保湿効果と抗菌効果を持つ添加物(イソプレングリコール等)が併せて配合される事もあります。

(トリクロサンの抗菌特性)
 グラム陽性菌、グラム陰性菌に有効(ただしグラム陰性菌の中には効果の低いものがある)
  
(トリクロカルバンの抗菌特性)
 グラム陽性菌に有効

ただし、以下の様な報告もあり添加量によっては実効性が少ない場合があるようです。

※2005/10に米FDAの諮問委員会は、「抗菌」をうたうせっけんや洗浄剤などの商品に、普通のせっけんを上回る感染症予防効果はないとする見解をまとめた。・・と言う情報もあり薬用石けん程度の濃度では効果が微々たるものかもしれません。
確かに、添加量が1%でも、流水等で泡立てながら手洗い等をする場合、その石けん液の濃度は数%に過ぎないので殺菌剤の濃度も1/10~1/100程度の濃度になってしまい、殺菌剤本来の最適濃度の0.3~0.5%の濃度よりもかなり薄い状態になります。
日本でも京都府立医科大学の報告で普通石けんと薬用石けん(トリクロカルバン1.2%入り)の効果をパキスタンで行った「小児感染症に対する石鹸による 手洗いの予防効果について」の研究結果の中で比較して有意差が認められなかったことが報告されています。(期間2002/4~2003/4)


様々な添加物・石けん

上記の過脂肪剤、殺菌剤の他に、何々配合と銘打って商品化されている化粧せっけんは、膨大な数あります。たいていは、添加物によるアピールですが、その原料油脂による命名もあります。
また、透明石けんも原材料油脂と製造方法により、その外観の商品性をアピールしたものです。  

■石けんの添加物の一例(安定剤、酸化防止剤等を除く)■
種別添加物
ハーブ系ラベンダーエキス、ローズマリーエキス、ノバラエキス、ローズヒップ油、カミツレエキス、カンゾウ抽出液、シソエキス等々
薬用植物系マロニエエキス、モモ葉エキス、アロエエキス、ヒマワリ油、カキタンニン、オウゴンエキス、クワエキス、ヨクイニンエキス、チョウジ油、ユーカリ油、ティーツリー油、カワラヨモギエキス、オウバクエキス、チンピ末
食品等緑茶抽出物、コメ発酵液、コメ胚芽油、オレンジ果汁、トウモロコシグリコーゲン、リンゴタンニン、キューカンバー液汁、アンズ核粒、スイカ果実エキス、チャエキス、ハチミツ、ニンジン末
動物系ローヤルゼリーエキス、スクワラン、キチン末、キトサン、加水分解シルク末、ホエイ
油脂類ホホバ油、ごま油、オリーブ油
その他ゼオライト、モロッコ溶岩クレイ、温泉水、海洋深層水、薬用炭
 
■ 医薬部外品と化粧品■   
項目分類効能対象
第二条第2項医 薬 部 外 品この法律で「医薬部外品」とは、次に掲げる物であつて人体に対する作用が緩和なものをいう。
1.吐き気その他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止
2.あせも、ただれ等の防止
3.脱毛の防止、育毛又は除毛
4.人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の防除を目的として使用されるものであって、医薬品の効能は併せ持たず、器具器械でないもの
薬用歯磨き剤、制汗スプレー、薬用化粧品、薬用石けん等ベビーパウダー類、入浴剤等育毛剤等殺虫剤、殺鼠剤等
第二条第3項  化 粧 品この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第1項第2号又は第3号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。石けん、歯磨き剤、シャンプー、リンス、スキンケア用品、口紅、化粧水等の一般化粧品